2006年 9月議会 一般質問



◎市民が安心して暮らせるために
〜格差社会の是正に向けた地方自治体の責務と役割ついて〜


■一般質問
                                                  市民元気クラブ 中西とも子
 市民が希望をもって安心して暮らせるために、市が果たすべき責任や役割について、(1)市の理念・基本的な考え方という観点にたって(2)具体的な高齢者施策について大きく2項目にわたり質問いたします。

 1項目目として市の施策の根幹をなす理念の部分についてお訊ねします。

 「一億総中流社会」は過去のものとなり、今や「格差」社会が定着しつつあります。効率化を追求し、「競争」が激化するなかで職場・地域・学校で「勝ち組」と「負け組み」に選別され、経済的にも精神的にも追い詰められた人々が溢れています。自殺者は毎年3万人以上、生活保護の受給世帯数は2005年に100万世帯を突破し、その後も増加傾向にあります。小泉内閣が提唱した「努力した人が報われる社会」とは、新自由主義経済の枠組みのなかでの一部の勝者が経済的に報われるだけであって、人としての尊厳や個性が尊重されや努力が公平・公正に報われるという類のものではありませんでした。
 いつのまにか「自己責任」論がまかりとおり、「福祉支援」を受けることさえ「利益」としてカウントされ、「利益を受けるのだからその分を負担せよ」というまったく憲法や条例の理念・趣旨に反した理不尽な論理を押し付けられるようになりました。
 
「税制改革」・「医療制度改革」などで高齢者や障害者、シングルマザーなどの低所得者層・社会的弱者へ大きな負担がのしかかり、暮らしに対する不安が広がっています。また「改正介護保険」「障害者自立支援法」などと併せて、本来国が果たさねばならない社会保障や福祉的役割を地方へ責任を転嫁する構図となっています。
 
 地方に負わされた課題はあまりにも大きく、財政的にも限界がないとはいえません。しかし、市民が安心して暮らせるための基盤整備については「箕面市第4次総合計画」の「基本構想」のなかで「将来都市像を実現するための基本目標は、全ての市民に確保されるべき『安心な暮らし』を実現すること」としており、その「安心な暮らし」のために「保健・医療・福祉の充実」の施策化を目標としています。

 例えば「障害者自立支援法」において、従来の応能負担から応益負担への転換という大きな施策変更がなされました。もともと「周囲のひとの手を借りずに自分ひとりでできるのが自立」という「自立論」から「サービスを使いながら自己決定することが自立である」というふうに、1990年代以降、理論的に認知されたうえで行政・地域とともに「共生社会」をめざしてきたはずです。「障害者自立支援法」はその意味でも、時代の流れに逆行し容認しがたいのです。

 まず、ここで確認しなければならないことは、箕面市としての理念に基づいた施策化をいかに実施していくか、が問われているのだ、ということです。国が決定した法律・施策だから止むなしとするのではなく、法の理念・趣旨に照らし合わせて、地方自治の観点から住民ニーズに沿った施策を展開するべきではないでしょうか。その基となる箕面市の理念とは、「箕面市まちづくり理念条例」「箕面市人権のまち条例」において誰もが個人として尊重され、「市民は、まちづくりの主体であって、まちづくりに参加することにおいて平等であり」また「市長は市民の健康増進、生活援助及び社会参加を進める」と規定しています。さらに、「箕面市福祉のまち総合条例」では「福祉は、人々の生活の基盤であり、教育、労働、生活環境などのあらゆる行政分野を越えて存在する普遍的な価値として、市の施策の根幹をなすものである。」と福祉の役割や市の責務について明確にしています。
 つまり、福祉は人々の生活基盤であり、「生きるために必要な支え」であるため、市の財政が枯渇してきたからという理由で、削減できるものではありません。
 まず予算ありきで施策を組み立てるのではなく、実現のために何をどう工夫し予算設定すればよいかを検討し、施策化すべきであると考えます。
 ちなみに、岐阜県可児市では通所・更生の両施設のサービス利用料の1割負担を全額補助する制度を設けることを政策決定しています。これは1割負担が作業工賃を上回ってしまうケースや、自立への意欲を阻害しかねないと考え、導入に踏み切ったものです。市の福祉課は「雇用の地盤が整っていない地方では就労支援も難しい。自立支援法の趣旨にも合うと考えた」と話しておられるそうです。
 以上市の理念にかかわる点について、見解を求めます。これは今後の施策化について根本的にどのような立場・姿勢を貫くのかという、とても重要な問題であるため、あえて質問させて頂いた次第です。

 2点目に、本来ならば国がおこなうべき事業を、国が放棄するならば、市は国に対し市民の生活実態を訴え、速やかに国の責務を果たすよう強く要請すべきですが、いかがでしょうか? 市はこの間、国・府に対し、税制や医療制度の改訂、「障害者自立支援法」や「新介護保険」事業にかかわる件で具体的にいつ、どのような要請を行なってこられたのかを、教えてください。

 3点目に、市民の生活・意識の把握について質問いたします。
たとえば東京都では社会福祉基礎調査を実施して都民の生活実態と社会福祉に関する意識調査の把握に努め、施策推進のための資料としています。世帯と世帯員の経済・住居状況の把握にはじまり、生活保護世帯や低所得者世帯、子どもや高齢者、手帳所持者の状況についての詳細にわたる調査をおこなっています。箕面市でも市民満足度調査をはじめ、さまざまな実態調査を実施していますが、東京都の調査は各当事者に対面式で聞き取りを行うためそれよりも踏み込んだ項目での調査となっています。
 より当事者ニーズに沿った施策展開をはかるためにも、このような基礎資料が必要であると思いますが、大阪府の調査は今のところ東京都の調査ほどの細やかさではありません。箕面市は大阪府に対して東京都のような実態を把握する調査の実施を求めておられるでしょうか?または、今後箕面市独自でこのような社会福祉にかかわる丁寧な調査実施についての検討されているのでしょうか?

 総務省統計局の2005年度の家計調査では勤労世帯の1ヶ月平均の手取り収入は44万1千円で、このうち可処分所得の32万9千円が食料や住居費などの生活費に使われています。 また、世帯主が60歳以上で二人以上の無職世帯の1ヶ月平均実収入は、22万6千円、可処分所得は19万8千円となっています。しかし、消費支出は25万円であるため、可処分所得との差額5万2千円が赤字となり、その不足分は貯蓄を取り崩して賄っていることになります。さらに60歳以上・単身者の実収入は月平均12万3千円、差し引いた可処分所得は11万3千円です。実際の消費支出は14万7千円で3万4千円の赤字となっています。税制改革後、箕面市ではこれらの人々の可処分所得がどのように変化するでしょうか?
 また、70歳以上の「現役並み」と位置づけられた所得の高齢者は10月以降の医療費が3割負担になります。たとえば2006年の7月までは1割負担の医療費ですんでいた人が8月からは、税制改訂のもとで老年者控除がなくなり、公的年金の控除も縮小となって、非課税だったひとが課税世帯となってしまうため、収入が変らないのに、増税となるひとがでてきます。老後の暮らしにそなえて計画的に積み上げてきた高齢者のささやかな夢や願いを打ち砕くような国の施策には心の底から怒りがこみ上げてきます。

 この項目の最後に、市税収入の増加分が福祉施策分にあてがわれるのか否かについて質問します。市民にとって血税がどのような予算として使われるのか、大変おおきな関心ごとであると思います。合理性のある方法で還元されるのなら、まだ納得できる部分があるかもしれません。このたびの一連の制度変更で、とりわけ高齢者に大きな打撃がありましたが、この高齢者からの徴収分について今後どのような考えで扱う予定であるのか、市の考え方について質問するものです。
 
 以上、生活の厳しさ比べとなり、より低い水準へと照準が合わせされることのないよう願っています。格差がますます固定化され、貧しさゆえに人としての尊厳や社会の一員としての行動や生きるための権利が奪われることのないよう、少なくとも自治体が網をはりめぐらし、だれひとりこぼれることのないようにすべきであるし、限りなくその努力を怠るべきではないと思います。民生常任委員会において、「社会的弱者を切り捨てるようなことはしない」というお約束・決意をお伺いしました。先ほどの理念と併せて、箕面市が今後もこの立場を堅持し、施策化をはかられますよう、強く要望し、第1の項目を質問いたします。

 2項目目として具体的な施策提案を含めて、地域で安心して暮らせるための高齢者の認知症対策について質問いたします。

 地域で当事者や介護者家族が安心して暮らし、介護できるために、先々を見すえた介護予防・介護者支援策を提案したいと思います。
 まず、認知症対策についてですが、団塊の世代が高齢者になる2015年頃には、介護が必要な認知症の人は今よりおよそ80万人増え、さらに2030年には「高齢者の10人に1人」の時代に突入すると言われています。認知症をめぐる虐待や心中事件も後を絶たない状況です。
 認知症といっても初期の状態から重度まで様々です。望ましいのは極力初期の段階で進行を遅らせることであり、そのためには当事者が適切な環境で過ごせる状態を維持できるよう配慮することだと考えます。またそのためには介護する家族の負担を軽減することも重要です。

 そこで、地域で在宅の認知症高齢者を支える試みとして、「見守りサービス」というものがあります。提案したいのは、山形県鶴岡市が市の単独事業として実施しているサービス形態のものです。厚生労働省によると2005年度では74の市町村で独自に導入しています。原則としてオムツ替えなどの身体介護は行わず、「見守り支援員」として散歩や話相手になり一緒に時間を過ごします。鶴岡市では1時間800円の委託料で市が事業者へ委託し、うち600円を市が、200円を利用者が負担するという仕組みです。深夜の利用も可能で、月80時間を上限としています。働いている家族にとって、デイサービスや訪問介護と組み合わせて、目の届かない時間を減らせるため、負担が減り、大変好評であるとのことです。また財政面においてにも1ヶ月以上利用した場合、グループホームなどに入所した場合と比較すると、公費負担は2年間で2500万円抑制された、とのことです。地域のNPOや人的資源を活用しながら介護の負担を減らし、高齢者が自宅で暮らすことを可能とするサービスであると思います。是非、箕面市でも導入を検討してはどうかと考えますが、いかがでしょうか?

 また、もう1点、仙台市などで始められている「うつ対策」、医師と行政の連携でおこなう地域ケア策についての提案です。
 ひとり暮らしの孤独死や自殺などは無論ですが、自殺に至らなくても「死にたい」と考え、閉じこもる高齢者は多いという現実があります。仙台市の団地で行われた健康診断では、受診者の2割にうつ症状がみられうち15%が自殺を考えていた、とのことです。農村部と比較すると都市部のうつ状態は倍以上だそうです。
 仙台市病院で神経精神科部長をするかたわら、市とともに政策立案や訪問看護師の育成・患者相談や啓蒙活動をおこなっている医師は「老人の精神的変調はケアされないという現実を嫌というほど味わった。もしうつ病になっても『自分はうつ』だと自覚し、周囲の支援を受けながら最後を迎えて欲しい」と語っておられます。うつ症の重症化を防ぐためには医療だけでは限界があるため、患者を支える家族や地域、家族を支える地域の体制(社会的支援)が不可欠となってきます。
 うつ対策については「具体策がわからない」とされてきましたが、団地で試行し成果が確認されたため全市的に07年度から本格的なうつ対策がおこなわれる、とのことです。対策の柱は@早期発見A訪問・相談による支援B普及啓発となっています。具体的には市の健診受診時や地域包括支援センターへの相談者を対象に抑うつ状態を1次チェックし、うつ症の疑いのあると判断された人を看護師が自宅を訪問し、2次チェックをおこないます。うつ症状が見られた人は精神科医と役所の担当者、訪問看護師らが支援策を検討し、医師の助言や訪問など適切な対応を図るとしています。またそのためのきめ細かい対策や訪問員の養成をはかる、としています。
地域での浸透がどこまではかれるかという課題はありますが、箕面市でも是非前向きに検討していただきたいと思います。心のケアは当事者や家族の苦しみに反して、非常に見えにくく、わかりにくいため、周囲の理解や地域全体での協力体制が不可欠です。むつかしい課題であるために、大半の自治体が手を付けられずにいる状態ですが、成功例を参考として研究し、ぜひ前向きに検討していただきたいと思います。

 以上、私の一般質問を終わります。


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